水嶋かずあきの甘辛問答

神奈川県平塚から、水嶋かずあきが語ります。
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親方になったはさみ

以前にもブログに登場しました伊藤雅易師匠の話です。
伊藤師は、かつて紅谷町の一角で一粋と言う料理店を出していて、
その後、中里の自宅を改造し、同じく一粋の名で料亭を、しばらくの間経営していました。
伊藤師の料理人としての知識・感性・技は、ちょっとその辺では見当たらないほど、

優れたものを持っていて、鳥保貴柳庵の鳥海さんの発案で、

伊藤師を先生とした料理教室を開催しようということになったのです。

そして、この料理教室に参加する中で、私は、驚くほどたくさんのことを教わったのです。
伊藤氏は、明治生まれの頑固者でした。
ある時、何か用事があって外出することになり、
かみさんに、今日は午後から出かける、と言ってあったのです。

で、時間になって、玄関に出たら、履物が揃えて出ていない。
と、自分で出そうなんてことはしない人なので、はだしでそのまんま出て行ってしまう。
これに、かみさんが気付き、ご亭主の履物を手に、大声で呼びとめながら後を追ったことがある、

と言った逸話があるほどです。
ともかく頑固で横着なところがありました。
しかし、料理人としての才能は溢れていて、その内容は、際限の無さを感じたくらいです。
この料理教室は、月一で開催され、もちろん指導は伊藤師。
生徒はと言うと、市内の料理店の主か、その板長。
まあプロの集団です。
とっかえひっかえ10人ほどが生徒として名を連ねていましたが、
この10人が束になっても先生の料理には敵わない。

ともかく、素材に対する考え方、料理法に関する原則的な手法、献立の組み上げ方など、

毎回、多方面の内容を披歴してもらいました。

 

で、いつものように教室が終わり、みんなで後片付けをしていたんですね。
鍋を洗ったり、皿を拭いてしまったり、と手分けして始末するんですが、
なかには、庖丁を研いでいる人もいるわけです。
この庖丁の後始末と言うのは、実はかなり個性差があって、
さっと拭くだけの人、軽く磨き砂で曇りを取る人、荒砥、仕上げ砥、と丁寧に研ぐ人、と。
まあ、切れ味次第なんですが、それぞれに、片付けのフィナーレのように、

最後は一斉に包丁の始末で終わるわけです。
大体は、砥石の上を行ったり来たりと、裏表丁寧に磨くんです。
で、この様子を見ていた伊藤師が、なんだお前たちの包丁研ぎは、と口を挟んできたんです。
生徒とはいえ、一応、その道のプロ、中には20年、30年の猛者もいるんですね。
その連中に、基本たる包丁の研ぎ方に口出ししてきたわけです。
私は、何を言うのか、興味津々でした。
で、一言、
「お前たちの包丁研ぎは、研ぐなんてものじゃない。
これは鉄を減らしているだけだ」と。
切れのいい状態になれば、当然そこで終わるんです。
ですから、包丁研ぎは何回か砥石の上を行き来させたら、一定のインタバルで刃を指先で触り、
その具合を確かめるわけですが、
伊藤師のよると、要は、削り過ぎだ、と言う事なんですね。
私はその言葉を聞いて、素直に、包丁研ぎについて考えを改めました。
確かにそうかもしれない、

擦すりゃあいい、というもんじゃない、と。

 

昨日、かみさんとララポートに散歩がてら買い物に行こう、ということになりました。
で、午後からぶらぶら出かけて行ったんです。
なんとなく、いわゆるウィンドショッピングをしながら、はっと気づき、
キッチンばさみの切れが悪くなって、

ビニール袋を切る事さえうまくいかなくなっていたのを思い出しました。
で、新しいのを買おう、と。
ゾーリンゲンの商品の並んでいるお店に入って品物を見たんですね。
で、値札を確認すると、なんと、5000円。
キッチンばさみで5000円かよ、と思いました。
余りの感覚の差に手を引っ込めてしまったのです。
で、近くのキッチン用品のお店に切り替えて、2000円ほどのものを買い求めました。
家に戻ってから、切れの悪いのは捨ててしまおうか、と思って、

前任のはさみをよくよく見たら、ゾーリンゲンのものだったのです。
あの、5000円と同じものです。
そうだったのか、これはゾーリンゲンだったのか、と再認識。

 

そう言えば、キッチン用品のいくつかは母が買い求めて、水嶋家で受け継がれてきたものが多く、
これをマンションに越してきた時に持ってきたわけで、はさみもその一つ。
そこで、廃棄する前にものは試しと、研いでみたのです。
最近の食材は何かと言うとビニール袋に入っていて、
準備段階ではさみで袋を開ける、と言う作業があります。
包丁に次ぐぐらいの必要度の高い道具です。
しかし、包丁ほど、切れ味を確認することはありません。
つまり、研ぐなんてことはあまり意識にないんですね。
でも刃物です。
そこで、一応研いでみたのです。

当然ですが、結構切れ味が戻ったんですね。
しかも、磨き砂で柄の交差する所の汚れを丁寧に掃除したら、新品同様になりました。

なんだ新品買ってくることなかったな、と。
ま、でもせっかく新品飼ってきたのだから、先ずはこれが現役の最前線で使おう、と。
で、復活したゾーリンゲンは、引き出しにしまったんです。

 

ま、横綱を引退して親方になったようなものですね。

 

| 水嶋かずあき | グルメ | 11:15 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |









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