水嶋かずあきの甘辛問答

神奈川県平塚から、水嶋かずあきが語ります。
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無事是貴人

私達は、無事という言葉を、かなりさまざまな場面で使います。
空港まで見送りに来た家族に、目的地に着くや否や電話して、
無事に着いたよ、とか。
手紙で、相手の身を案じながら、御無事を祈ります、とか。
中には、馬の評価で、無事これ名馬、なんてことも言います。
早いとか力があるとか以前に、先ず怪我をしないこと、これが名馬の条件、
という事でしょ。


相撲取りにも当てはまりそうでしょ。
ともかく怪我無く土俵を務められれば、そこそこの地位には上がれる。
逆に、あんなに勢いがあったのに、最近どうも成績がはかばかしくない、
なんていうのは、どこか怪我をしているんですね。
ま、ここでも無事これ名馬なんでしょうね。
いや、名力士か。

 

要はこれといった波乱もなく、平穏に過ごせたり、
予定、計画が滞りなくすいこうできたりすることは、無事なわけです。
ですから、無事とは、要はややこしい事が無いわけでしょ。
という解釈が圧倒的ですよね。

 

ところが本来は少し使い方が違うようなんですね。
例によって中国出典の言葉なんです。
無事は、臨済宗祖・臨済義玄禅師の言葉で、いわゆる禅語の一つ。
禅語としての「無事」が意味する所は実に深いものがあります。
多分理解しがたい境地のことだと思うんですが、
無事とは、馳求心(ちぐしん)のことなんですね。
もっと分からないでしょ。
馳求心とは、外に向かって求める心のことなんです。
まあ、ある意味では、様々な某脳のようなものをすっかり捨て切ったさわやかな境涯のことだそうです。
でこの心境の難しい所は、
求める心を捨てるといっても、無気力とか、無関心とかの、
だらだらした状態ではありません。
なんか、解釈によっては、夢や希望を捨てろ、とか捉えられがちですね。
また、財産や名誉をあくせく求めるなという表面的な戒めでもないんですね。
「無事」とは、求めなくてもよいことに気づいた安らぎの境地というのだそうです。

 

もっとも、禅宗の教えの中のことですから、
禅問答的難解な理念と、抹香くさい感覚が感じられると思うんですが、
まあ、出来ればそんな境地にたどり着きたい、という心の状態なんでしょうね。
いや、いいとこだから目指してください、なんて薦めているわけではありません。
通常私たちが使う無事とはいささかその原点は違う、という事を言いたかったんです。

 

臨済禅師は、悟りとか、救いとか、今様に言えば、しあわせなど、

自分自身が安穏とできるようなある状態になりたい、とばかり自らの外に求めることは

愚かしいことである、と厳しく戒めたそうです。
これらのものは、求めて得られるどころか、求めれば求めるほど
遠くへ逃げていってしまう、と言うのですね。
例えばです、純真な人間になりたい、と願ったとします。
これはそう願ったというじてんで、欲がある、と考えるんですね。
ね、難しいでしょ。


いや、むきになることはありません、そういう世界もある、と言うことです。

で、私達は、凡人ですから、生涯求道の限りの生き方をしても、もがくだけのことです。
ですから、身の丈に合った人生観を持てばいいことです。
私の知人で、私は大いに尊敬をしていた方だったんですが、
この求道の気持ちが強く、絶えずわが身を律しようとするんですね。
で、おうおうにして自分はこれほど厳しい環境に身を置いているんだ、

という自負が、ちょっとしたところに現れてしまう。
時に、厳しく身を律すると言うことを周囲に求める。
そうなると、人は離れてゆきますよね。
確かに筋は通っていて、なかなか立派な考えなのですが、
君のそこが足りない、とか言われると、もちろん事実の指摘ですから、
ぐうの音も出ないのですが、「快」という心境になれないものなんです。
結局、清く正しくいきましょう的な押し付けは、

多くの人との距離を作ることになったしまうんですね。
きっとこの無事もそう言うことでしょう。
無欲な人格を求めるということ自体、そこに欲が存在するというんですから。

 

まあ私達は無事とは、これといった波乱がないこと、
安寧の状態という今までの解釈でもいいのではないかな、と思います。
そういえば、コロナが収まって早く無事の毎日に戻れるといいですね。

 

| 水嶋かずあき | あれこれ | 21:40 | comments(0) | - | - | - |









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